アスリートの言葉が持つ力 

パリオリンピック2024での活躍が、連日メディアを通じて伝えられています。選手のインタビューを時々リアルタイムで観ておりますが、その言葉から学ぶことが多くありました。並大抵ではない努力、どん底を味わった故の喜びの大きさ、逆境を乗り越えるまでの過程と苦しみ、周囲への感謝など、短いインタビューの切り取りではありますが、トップアスリートの言葉の力強さを感じました。

一例ですが、フェンシング男子エペ日本代表 加納虹輝選手が、金メダル決定直後のインタビューで話された言葉です。

「努力の仕方が間違えていなかった」

「金メダルを獲得できるんだなと僕自身身にしみたので、やっぱ口に出していくことが大事なのかな」

加納選手の言葉を聴いて、カウンセリング場面を思い浮かべることがありましたので、とりあげさせていただきます。

努力の仕方"について

カウンセリング、特にCBT(認知行動療法)では、クライエント様ご本人に努力(日常生活での試行)をしていただくこともあります。努力する前のプロセスとして、自分の強み、弱み、改善点などを自分で理解していることが大切になります。当オフィスでは、心理査定をして対処すると良い課題と優先順位を見える化し、その後認知行動療法カードを使ってカウンセリングを実施しております。

カウンセリングでは、クライエント様の状況、心身の状態、感情、理想と現実とのギャップ、解決したい時期、目標などを伺います。面談の中で効果的な解決手段や無理のない方法を選択してもらい、優先順位をつけておきます。試行錯誤しながら行動に移し、効果を検証して結果につなげていきます。

困りごとや悩みがある時に、調べて得た情報や、よろず相談的に知り合いからのアドバイスで対処し、四苦八苦されながら相談に来られる方もいらっしゃいます。そのアドバイスでうまくいけば特に問題はないのですが、他者のアドバイスの多くは、その方の経験値によるティーチング(教え、与え)が多く、ご本人にとっては的外れになってしまい、結果として心理的に行き詰ってしまうこともあるようです。

目の前に力を注ぐ場面ができた時、悩みや困りごとができた時、的を得た解決の糸口につながるためには、まず自分自身をよく知り、ご自身の課題に合ったサポートを受けながら進めていくほうがスムーズなようです。

”口に出すこと”について

思いを口に出すことでの心理学的な効果としては、思考の整理と決意、感情の開放、自己肯定感の向上、自信の向上、周囲の理解、支援の獲得の可能性など多くあります。選手たちは想像を絶する葛藤の中で、自分を信じて目標を口にしながら鼓舞してきたのでしょうね。

周囲に言葉として発しなくても、人は1日のうちに数万回セルフトークをしています。セルフトークとは、自分自身に言い聞かせていることを言います。簡単に言うとつぶやきのようなことで、例えば何か動く前に思い浮かぶ言葉…「さあ、やるか」「面倒だな」「どっこいしょ」などです。頭の中で考えたり思い浮かんだりする言葉は、ポジティブだったりネガティブだったりします。そのセルフトークによって、自分の行動や感情、心理に影響があります。

選手たちも、自分自身に「私はきっと金メダルを取れる、大丈夫」あるいは、自分自身を俯瞰して「きっとあなたは金メダルを取れる、大丈夫」とトークするのと「私はたぶんダメかもしれない」とトークして臨むのでは、結果はどうあれ、確かに心持が違う気がします。

日々の小さなつぶやきをポジティブな言葉で積み重ね、思考、感情、行動がポジティブになれるとしたら、ポジティブなセルフトークは試す価値はありそうですね。